大きいキルトを作るに際し.4(最終回)

やれ計画を立てろとか、シンプルなものにしろとか、いろいろ言ってきたけど、
本当に大切な所は、実はそこじゃない。
大きいキルトを作る目的は、三つあると私は思っていて
ひとつはもちろん、「キルト」っていう「物」を手に入れること。
自分で手作りした物は、ふたつとこの世に存在しないし、思い通りのものはなかなか売ってはいないのだから、自分で作ってそれを手にする喜びは大きい。
温かく柔らかく、色や柄で目を楽しませてくれる、それが手作りのキルト。
部屋に一枚あるだけで、毎日が明るく楽しく前向きになるのだから、これは相当素晴らしいものです。
断然、時間もお金も注ぎ込む価値が十二分にあるってこと。
もうひとつの目的は、
その大きいキルトに、作っていた時間、作っていた自分の記憶が残ること。
そのキルトを見るたびに、その時の自分や家族、季節や音楽がよみがえって来る。
来る日も来る日も眠い目をこすりながら、暑い日は汗を垂らしながら、忙しい日は、一生懸命用事を片付けて時間を捻出して作り続けてきた。
ある時は始めたことを後悔した日もあり、作りかけの状態が部屋の中で邪魔に思えた日もあり、やらねばというノルマのようなものが重荷だった時もあり・・・・・
でもがんばって必死に完成させた!そのキルトを見るたびに、その間の自分が走馬灯のようによみがえる。
もっと歳をとったら、きっと懐かしく思い出されるでしょう、若かった自分、小さかった子供、忙しくて大変だったのに何だか無性に楽しかった日々。
まるでアルバムのように、その一針一針に、思い出が刻み込まれていく。
自分が死んでからも、そのキルトはもしかしてどこかで生き続け
誰かのために存在し続けているかも知れない。
そう考えると、何だかちょっと神秘的な感じさえしてくる。
今、自分の作っているヘンテコなものだって、100年後には立派なアンティークキルトってことよ!
もしかして、私の作ったものが高値で取引きされていたりして・・・・・
無いとは言い切れないし、そんな想像だって、自分だけでしている分には、誰の迷惑にもならないもん。

三つ目は、「作る」っていう行為から、「誰かに何かをもたらす」こと。
誰かっていうのは、主に自分。
何かっていうのは、言葉に表すのは少し難しいんだけど
平たく言うと、「夢中になる瞬間」。
好きなことをやり始めたら、楽しくて楽しくて時間を忘れていたってことあるでしょ?
私も一度ならず経験があるし、いろいろ聞いた話の中には
朝始めてお昼を食べるのも忘れて、一度も時計を見なかった。
帰って来た子供に、「電気もつけないで何してんの!」と言われて、 初めて気が付いた。
ふと見ると外は真っ暗 なんていう・・・。
これは一種の『無我の境地』なのね。
一生懸命ヨガや座禅なんかで瞑想しても、なかなか辿り着くことが出来ない「無心」・・・はてしなく集中して無になるっていう瞬間。
こういう経験って、大人になるとそうそう出来ることじゃないし、時間を忘れるほど没頭できるなんてこと、何かほかに思いあたる?
キルト作りはね、うまくすると、あの境地に足を踏み入れることが出来るみたいなの。
もし今、悩み事や忘れてしまいたい事があったり、別の場所に行ってしまいたいと思っている人がいたら、キルトを作ってみるといいかも知れない。
思った以上の効果を発揮して、別人のようにスッキリした自分。
「無心」なんて、普通にしてたら絶対に到達できない精神状態なんだから、 そりゃもう、脳からも、体のあっちからもこっちからも、 良いものが大量に放出されているに違いない。
だからここで、私は敢えて言ってしまおう。

「大きいキルトは、出来上がらなくたっていい」

えーーーーーーーー!?

(そ、そうなの???)

だって、もし本当に1回でも、1日でも、そんな瞬間を味わえたのなら、目的の一つは達成されたんだもん。

でも
もちろん未完成を奨励しているわけじゃないのよ。出来れば、夢中になれたあとは、冷静に作業を進めてちゃんと完成に至って欲しい。それこそが本来の目的なのだから。

がんばって、楽しく作って辿り着いたその場所に、何が待っているかというと
当然無類の喜びと感動!  そして意外にも、 寂しさ。
完成の時。それはそのキルトとの別れの瞬間、 それはある日突然やってくる。
あんなにも、自分を悩ませ苦しめた日々がとうとう終わりを告げる時。
ふと、手がさみしいのに気づく。
なんだか、指先がすーすーして物足りない。
それはピーピー泣いてうるさくて、散らかしてばかりいた子供が、 独り立ちして出て行ってしまった日の、シンと静まりかえった部屋の中。

終わっちゃたんだ・・・・

恥ずかしながら、鼻の奥がツンとしてしまう

でも、大丈夫。
まだまだ作るものはいっぱいあるし、 また 始めればいいんだよ。
何度でも何度でも、自分の思うまま、 好きなものを、好きなように作ればいい。
きっとまた、楽しくてちょっぴりつらい、旅のはじまり。

みんな、旅の支度はできているかな?

じゃあ、そろそろ

いってらっしゃーーーーい♪

おわり

 

でも、番外編につづく

 

2012-11-29 | Posted in 読みもの | タグ: Comments Closed 

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